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Column 08 | 2021.02.10
新旧融合で生まれる新しい価値



岐阜県郡上市に「石徹白(いとしろ)」という集落がある。

ここは100世帯270名の過疎地域でいわゆる限界集落で、縄文時代から年間1000人の人が出入りし、霊峰白山への登山口・神社が鎮座する歴史ある場所。

この地には「小さな洋品店」がある。

それが「石徹白洋品店」だ。

この洋品店は、お店を営む平野さんというご家族が住む母屋のすぐ隣に位置し、農山村の原風景が広がる集落の中で新材の明るい色が一際目をひく。

たしか、私が平野さんの元ををはじめて訪ねたのは、2016年秋頃だった。

それは2階建ての作りとなっていて、1Fは工房およびワークショップスペース。 2Fが洋服の販売スペースになっていた。



この店舗建築のこだわりは「トレーサビリティ100%」と「新旧の融合」にあるという。

トレーサビリティ(英: traceability)とは、物品の流通経路を生産段階から最終消費段階あるいは廃棄段階まで追跡が可能な状態のことである。

建築に使っている木材は、平野さんの知り合いの杣(そま)大工の方が山から伐ってきた材(=天然素材の新材)と、近隣の古民家を解体した際に出た材(=古材)のみで作られており、釘をほとんど使わずに組み上げた建築物で、玄関ドア、梁、柱そして床といったように要所要所に古材が使われていた。

使われている材の出どころが全てわかるという点で「トレーサビリティ100%」ということである。

古材の梁はしっかりと黒光りしており、長いこと使われ磨かれてきたことを物語っていた。

新材とのメリハリについうっとりしてしまう。階段も石徹白のおうちから譲り受けたものだそう。 床も古材をふんだんに利用。 使われている建具も多くが古材だ。



新材は清々しく新しい光を工房に取りこみ、天然の木の香りを充満させる。

古材の床は本当に美しく、人の暮らしの跡がそこここに見える。

新材にはない長い時代の積み重ねによってできた傷、生活の匂い。

私は新材と古材の融合によって生まれた建築物にセンスオブワンダーを感じずにはいられなかった。

さらには、建築物におけるもっとも伝統構法らしい構造要素である「石場建て」が使われている。

最初、平野さんは「なんだか素敵な建物で、使うのがもったいない。このまま置いておきたい。」と思っていたらしい。

でも、毎日入って風を通して、過ごしているうちに、 もっともっと使いこんで、よりよい店舗にしていこうと思うようになったそうだ。

この店舗建築が成立したのは、古民家解体のはなしが近くであったのもあるが「杣(そま)大工」の存在が大きかった、という話も聞いた。

杣(そま)大工とは、日本古来の木造建築技術をもち、山から木を切り出すところから建築までを行う大工のこと。 山で木を伐ってその場で製材をするという現代建築では考えることのできない職業人である。

伐採現場である、山の斜面に「りん」と呼ばれる台を組み立て、その上に製材する丸太を積み、1本ずつ製材していく。つまり、伐採現場が製材現場でもあるのだ。

現代において「製材」というと、帯鋸(おびのこ)製材機を使った製材手法がほとんどで、ごくごく稀に大鋸(おおが)という大きな鋸(のこぎり)で製材することもあるわけだが、杣(そま)大工として原木を製材する際に使うのは、「斧」と「チョウナ」が主体となる。

斧とチョウナと鉋(かんな)を使って行う製材でなければ、曲がった梁を曲面で仕上げることはできないため、古民家の梁で見かける「美しい曲がり梁」や「木の曲面」はすべてこのような行程で作られているということになる。

製材機や鋸(のこぎり)では作ることはどうしても難しい。

石徹白洋品店の玄関入ってすぐのところにある「鉄砲梁」がまさにそれだ。



見事な鉄砲梁と古材の垂木・梁の組み合わせが本当に美しい。

現代の市場では、集成材が中心となっているため、売ることが難しい曲り木がこのように店舗建築の一部になっている。

建築を組み上げる際は、杣大工の人を中心に、それこそ知り合いを呼び集めて皆んなで組み上げていくスタイルをとったそうだ。当然、大工さんが中心となって行うわけだが、中にはそうでない一般の方もいて皆んなの顔が見える。

だから、「人工」も「トレーサビリティ100%」となっているのだ。

昔の日本の住居の多くは、このようにムラの共同体に属する人々が協力しあって作り上げていたという。

しかし、時代は変わって、近代合理化のもと、工業化は進み「どこの誰か知らない人たち」が、今私たちが住んでいる住居や仕事場を作っている時代になった(知っているとしても設計者や現場監督くらい)。

そして、使われている材料は「新しい物」ばかり。

石徹白洋品店は「新旧融合で生まれる新しい価値」について考える格好の事例のように私は思う。

移動制限が解除されたら、また訪れたい場所の一つである。

写真・文:tanaka shingo







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